「老人と海」の回

今週のお題「読書感想文」

 

不可侵なる精神領

老人の闘いは、あまりにも崇高すぎる。

崇高すぎるため私は一歩も動けない。

彼を助けてあげたい、彼に救いの手が差し伸べられて欲しい。

そんな安いことなど考え付かない。

 

つまり不可侵なのだ。

ヘミングウェイの文字を経由して伝わる

老人の鼓動と息遣いが彼の精神を物語る。

それに触れてはならない、崩してはならない。

私を気圧するものがその老人にはある。

 

私に残された選択肢はただひとつ

黙って彼の背中を見る

ただそれだけ。

 

 

避けられない

現在、私は大学生だ。

これまでの短い人生で「現実」というものを

何度も何度も見せつけられてきた。

 

それは時に幸福。

しかし時に絶望。

 夢のようだとも思えば、

夢であってほしいとも思った。

 

「現実」はそんな風に私の心をかき乱す。

しかし私は弱いので、何度も逃走を図った。

バカをしたり、背伸びしたりして自分を偽った。

新しい自分を探してみたりもした。

それはただの気休めだった。

一連の『お遊び』が終わると

再びソレを意識せざるを得ない。

 

避けることなどできやしない。

それでも、弱い私は逃げ道ばかりを探す。

 

 

老人の姿1

老人は違った。

私は不思議だった。

 

大海原に老体が1つ、

乗っているのは年季の入った手漕ぎの小型舟、

かかったのは超大物のカジキ。

カジキは自分が仕留められまいと必死に暴れる。

老人は何度もその魚に痛めつけられる。

 

しかし彼は体がボロボロになりながらも死闘を続ける。

彼には逃げるという選択肢は無い。

カジキとして現れた「現実」に立ち向かって行った。

 

老人の姿2

その闘いの最中、老人はカジキに話しかける。

「俺は最後までつきあえるぞ」

「お前はけっきょく死ななきゃならん運命なんだぞ。いや、お前のほうだって、おれを殺さなきゃならないというのか?」

「さあ、殺せ、どっちがどっちを殺そうとかまうこたない。」

 

なぜか彼は、カジキに殺されることを良しとしている。

目の前の「現実」に殺されることを良しとしている。

 

老人は私と違い、強いのだ。

 

素直にそう思えた。

 彼は私のように

自分を偽ることなく、迷うことなく、

等身大の自分をカジキすなわち「現実」へとぶつけている。

等身大であるからこそ、相手に対して散っても良いと思えるのかもしれない。

 

避けることができない現実を認め、

今の自分を真正面からぶつけること。

 

自分が持たないものだからか、

私はそれが美しく思えた。

そして同時に

この美しさに手はかけられないでほしい、

ただ彼の闘う姿を見ていたいと思った。

 

 これから先で

 なにも私は

「全ての現実から逃げるな!!」

 ということを学んだのではないし、

そう言いたいわけではない。

 

しかしこれまで生きてきた中で

「絶対の絶対に逃げられない現実」

というものがあることを理解した。

 それはこれから先でたくさん現れるはずだ。

その時、私はどうするだろうか。

 

その時こそは私は逃げてはならない。

その時こそは等身大の私を

ぶつけなければならない。

 

心からそう思う。

 私も老人と同じ

ライオンの夢をみられるだろうか。

 

 

今回は読書感想文の回でした。

要は「ヘミングウェイ作の『老人と海』を読んでください」ってことです。

老人と海(新潮文庫)

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